Project:Sileneについて

 この文書は機密レベル5に設定されており、上位以下の研究員が閲覧することは禁止されています。ただし例外として、研究員031-A-0082、または監視員0025が何らかの危機的状況となった場合、プロジェクトを引き継ぐ目的に限定し、この文書の閲覧を許可します。

“プロジェクトの目的は、Silene の存在を隠し通すこと。そしてその為には、彼女に嘘をつき続けなければならない”

 Project:Sileneは、近代における魂の人工的な回帰を目的とした実験のうち、通称『星砕き』(肉体から離れた魂を強制的に別の器へ移し定着させるというもの)で生まれた実験体:HOz-32006B-0011A (以下Silene uniflora)、HOz-32006B-0011B(以下Silene)を、保護、隠蔽することを目的としています。このふざけた一連の研究の終了と、それによる人類の尊厳の回復のため、我々は何としてもSileneの存在を『星砕き』の成功例として外部に認知させてはなりません。
 プロジェクトの円滑な進行のため、Sileneに真実を伝えることは禁止します。その代わり、Sileneにはある程度真実に沿って作成されたシナリオを記憶させます。(当初はSileneに現状を全て伝える予定でしたが、監視員0025 より、Sileneが真実を知ることでプロジェクトの進行を妨げる要因となり得る可能性を示唆されたためです)
 以下にSileneに記憶させた内容と合わせて記録します。このシナリオは現実の出来事と整合性を持たせる必要があります。以降Sileneの認識に変化がある場合は必ず追記してください。

1、Sileneはとある少女の魂から生まれた花である。
(実験体:HOz-32006B-0011Bは、被験体:HOz-32006Aの星を実験体:HOz-32006B-0011A(Silene uniflora)へ移植した結果発生した有機生命体です。なお、被験体:HOz-32006Aは結婚適齢期の女性であり、未成年の少女ではありません。事実を装飾するため、シナリオ上では少女として扱っています)

2、ネオ、及びユーリカの両名は、とある少女の友人である。
(ネオは研究員031-A-0082、ユーリカは監視員0025を指しています。彼女らは被験体:HOz-32006Aの従者でありましたが、それ以前に良き友人であった事実は否めません)

3、研究所では植物の研究をしている。
(現在は魂と人体の研究が進められています。過去には植物の研究を行う場所であったことは確かです)

4、とある少女は歌を愛していた。
(被験体:HOz-32006Aは確かに歌を愛していました。しかしそれと同時に強制力を孕み、苦痛を伴うものでした。少なくとも、自身のために歌える歌はもう存在しなかったのでしょう)

5、Sileneは愛されている。
(それだけは唯一確かなことです)

 Sileneは、自身の存在が類のないものであり、あらゆる実験対象になり得ることを理解しています。そのため、外部の人間に正体を隠さなくてはならないという意向に素直に従う姿勢を見せています。彼女には一研究員としての虚偽のプロフィールが作成されています。万が一彼女の存在が王城関係者に疑われた際には、プランJを実行してください。

 プロジェクトの進行に支障がない限り、Sileneの行動、言動を制約する必要はありません。ただし、1日2回のバイタルチェックは必ず行う必要があります。
 検査機器を利用したバイタルチェックはHOz-32006B-0011Bにのみ行い、HOz-32006B-0011Aには目視での確認のみを行います。HOz-32006B-0011Bの検査結果は、HOz-32006B-0011Aの検査結果と常に同一になることを確認しています。(同一性検査にて判明)
 Sileneは過去に例のない、極めて稀少かつ特異な生命体です。検査結果に少しでも異常が見られた場合は、研究員031-A-0082、監視員0025に報告の上、状況に応じて適切な処置を施してください。

 上記で記した通り、HOz-32006B-0011A、及びHOz-32006B-0011Bは同一性を保っているため、片方の状態がもう片方にも反映されます。ただし、外傷や細胞の異常など、影響範囲が具体的な体積を伴う場合、それぞれの影響範囲はその身体の総体積に対する割合をもって反映されます。たとえば、HOz-32006B-0011Bが指の先を傷付けたとすると、HOz-32006B-0011Aに及ぶ切創範囲はHOz-32006B-0011Bよりも小さくなります。逆にHOz-32006B-0011Aの葉を切り落とした場合、HOz-32006B-0011Bに及ぶ影響はより広範囲に及びます。Sileneに及ぶ影響を最小限にとどめる為にも、研究員は極力HOz-32006B-0011Aへの接触は避けるようにしてください。なお、HOz-32006B-0011Aが配置されているエリアS-09は、上位以上の研究員にのみ入室が許可されています。中位以下の研究員にHOz-32006B-0011Aとの接触が必要となった場合、必ず上位以上の研究員が同行してください。
 なお、エリアS-09は常にHOz-32006B-0011Aにとって快適な環境となるよう、一定の温度、湿度、空気濃度に調整されています。
 食事に関しては通常の植物と同じく、水や日光、その他必要な空気環境があれば問題ありませんが、HOz-32006B-0011Bは人間と同じ食事をとることも可能であると判明しています。そのため、HOz-32006B-0011Bが希望する場合は、望むように食事を提供してください。

 経緯は割愛しますが、Sileneは自らの意思で歌うことを選びました。現在のSileneの歌声に特別な能力は確認されていませんが、HOz-32006Aの特性を引き継ぐ可能性も視野に入れ、彼女が歌を歌う時は必ずその音声を記録するようにしてください。もしもSileneに何らかの能力が発現した場合は、速やかに研究員031-A-0082、及び監視員0025へ報告してください。その際、Sileneに対し無闇に歌うことをやめるよう働きかけることは禁止します。

“いずれにせよ、我々はSilene に歌うことをやめさせる気はないよ。たとえ彼女の選択で世界が滅びたとして――それは我々の自業自得に過ぎないのだから”――ユーリカ


 そして最後に。
 HOz-32006B-0011Bを保護し、幸福にすること。それは我々の決意であり、HOz-32006Aの切なる願いでもあります。
 人類のためにその身を犠牲にし、誰よりも人類の幸福を願った彼女の祈りを、我々は引き継がなければなりません。それが彼女への感謝と贖罪になり得るでしょう。
 『星砕き』は遠くない未来に終わりを迎えます。その時、彼女に胸を張って報告ができるよう、これまで同様、手を抜かず、真剣に研究を続けましょう。

 世界は、じきに終わります。




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